公益財団法人新潟県健康づくり財団

健康コラム

【一般の方向け】むし歯との新しい付き合い方~削るむし歯と削らないむし歯
むし歯は専門的には“う蝕”と言います。近年、歯科におけるう蝕治療の考え方が、「早期発見、早期治療:削って詰める」から「リスク評価、予防、長期管理:診て護(まも)る」へと変わりつつあります。新潟大学医歯学総合病院 歯科では、2022年8月より最新のう蝕予防の概念に則った管理システムの運用を開始しました。ここでは、う蝕予防の最新の情報をお話します。
 
1.これまでのむし歯治療は「早期発見、早期治療:削って詰める」

むし歯は、痛みが出るころには、神経に達するほど進行していることも少なくありません。むし歯を初期段階で見つけて治療することができれば、治療も簡単で、かかる回数も少なくなります。削らずにフッ化物を応用して歯を強化する場合もあります(図1)。しかし、むし歯の初期段階はしみる、痛む等の自覚症状がありませんので、自分で見つけるのは困難です。そのため、「歯科医院で定期検診を受けて、むし歯が大きくならないうちに早めに治療しましょう!」と言われてきました。
 
図1.フッ化物を応用したエナメル質の強化。う蝕が初期段階であれば、削らずに済む場合もある。
 
 
近年、むし歯は、細菌感染症であると同時に生活習慣病の側面をもっていることが明らかとなりました。食事内容、食事時間、セルフケアなど様々な生活習慣病の要素が関与し、患者さんのむし歯のリスクが上がります。これまで、むし歯は、“削って詰める”が一般的治療として定着し、生活習慣病対策は講じられてきませんでした。痛いときに歯科を受診すれば良いという認識が根強いことが大きな問題でした。

そこで、政府は2022年度の「骨太の方針」で、年代関係なく国民全員が定期的に歯科検診を受けることを目標とする、「国民皆歯科健診」制度の導入を検討することを発表しました。また、学術団体ベースでは、う蝕予防管理に関する専門的知識と臨床技能を有する認定歯科衛生士を養成するために、2020年にう蝕予防管理認定歯科衛生士制度が誕生しました。このように、むし歯予防に対する政府と学術団体の取り組みも変化してきています。世界的には、2010年にAlliance for a Cavity Free Future(ACFF、国際非営利組織)という団体が発足し、カリエス(むし歯)フリーではなくキャビティー(う窩:むし歯の穴)フリー、すなわち、う窩のない未来を目指すことを実現可能なゴールと設定し活動を活発化しています。2018年には日本支部が旗揚げしました。
 
2.これからのむし歯治療は、「リスク評価、予防、長期管理」:診て護る

「歯を磨いているのに、むし歯になるのはなぜ?」、「私の歯はむし歯になりやすいの?」、「むし歯予防に何をすれば良いの?」と思ったことはありませんか?
むし歯は「むし歯菌の割合」、「糖質:専門的には発酵性炭水化物の摂取量と回数」、「唾液の量と歯の質」等が絡み合って発生します(図2)。むし歯になりやすさ(う蝕リスクといいます)も個人差があり、生活習慣も大きく関係します。これからのう蝕治療は、う蝕があるかどうかをチェックするのではなく、う蝕ができるリスクが高いか低いかを評価します。患者さんのう蝕リスクを評価して、どこがウィークポイントかを突き止め、患者さんとともに改善策を考える時代になりました。歯の人間ドックだと思えば、理解しやすいでしょう。
図2. むし歯の原因
そして、削らずに再石灰化が期待できるむし歯は、フッ化物を塗布しながら長期管理していきます。これからは、「むし歯になりにくい環境を整えて、予防して管理する」時代です(図3)。 図3. これからの時代のむし歯治療のモットー
 
3.むし歯になりにくい環境とは?
それでは、むし歯はどうなると起こるのでしょうか?

むし歯は、歯の表面で起こっている歯が溶ける現象(脱灰)とその真逆の歯が硬くなる現象(再石灰化)のせめぎあいの結果であると考えられています。脱灰にいる時間が長ければ長いほど、むし歯が発生するリスクが上がります。これは、むし歯のバランス論と呼ばれています(図4)。イメージとしては、脱灰と再石灰化がギッタンバッコンとシーソーしていると考えると理解しやすいでしょう。

はじめに患者さんのシーソーがどちらに傾いているかを評価します。そして、歯が溶ける現象の元凶(脱灰側の因子:リスク因子)が軽くなるように仕向け(バイオフィルム細菌のコントロールや食生活指導など)、再石灰化因子(生体の防御因子)が重くなるよう治療や指導(フッ化物の効果的な使用、唾液量の増加、抗菌剤の使用や予防的処置など)を行います。

図4. う蝕のバランス論
脱灰にいる時間が長いとう蝕が発生するリスクが上がる。
4.う蝕予防管理システム

新潟大学医歯学総合病院 歯科では、2022年8月より、う蝕予防管理システムの提供を開始しました(図5)。
https://www.nuh.niigata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2022/07/29af127943db0c5621eb66ece561bb78.pdf
 
 
図5. 新潟大学医歯学総合病院 歯科のう蝕予防管理システム
 
現在のう蝕のリスク評価システムの世界標準であるICCMS (International Caries Classification & Manegement System: 国際的なう蝕の分類と管理システム)と、リスク評価に基づくう蝕管理というアメリカで開発されたシステム(CAMBRA: Caries Management by Risk Assessment)をベースに、新潟大学医歯学総合病院オリジナル版として改良を加えたシステムです。

簡単な口の中の診査と、唾液を出してもらい、食生活に関する簡単なアンケートに答えてもらうだけで、2週間後の来院時に上記3のシーソーの判定(う蝕リスク評価の結果)がでます。痛みはありません。

みなさん、口のドックで、う蝕リスクを知って、歯科医師と共に「う窩(う蝕によって できた穴)のない未来」を実現しませんか。

監修:新潟大学医歯学総合病院 歯科 う蝕予防管理システムワーキンググループ